その声が聞きたくて ~舞台盗聴 考察・雑感~

約4年ぶりの主演舞台、本当におめでとう。そして全32公演、本当にお疲れさま。

 

「コノコエガ キコエマスカ?」

全身全霊に一心不乱に叫び続けたその声が、私にはこう聞こえたよ、という話をボチボチしたい。

濵田くんが生きた榎木田歩の人生に、大きな感謝を込めて。

 

 

 

 

本編

横山宅調査 ~ 睦美との出会い

一声目、口で「コココ…」と鳴らす音が、「(VOXは)音に反応するタイプなんです」という台詞と繋がっていることに気付いたのは3回目くらい。(遅い)それくらい、ボォっと照らされた主人公榎木田歩の登場に、毎度視線を奪われていた。

「ありました~!!!」と響く軽快な声で、この物語が転がり始め、105分間をノンストップで走り去っていく。阿久澤さんの発声がやべぇことしか分からん。

今後ずっと後を引く「盗聴」「浮気」「嘘」「性善説」を丁寧に置いて並べながらも、決めポーズ→場面転換で明確に【笑って良い】を提示する演出。これらが1ページ目に課される「ワクワク感」という最重要任務を難なくこなし、スタートダッシュを成功させる。

「ear(嫌)!ear(嫌)!」の健吉の顔、マジで嫌そうでほんと可愛いよ。(随時有輝かわいいbotと化します)

 

この物語が【サスペンスコメディー】を成立させているのは、「分かりやすい笑い」と「圧倒的に"重要"な台詞」が代わる代わる踏襲してくるからであって、きちんと場面に存在する者全員の人生が同時に動いている(これが欠けている"創作物"は感情移入が難しい)からだと思う。

ネコ2匹(鐘と睦美の会話を目で追う榎木田と健吉のことです)を愛でていたら、2人の関係性に想像を膨らます時間を奪われるし(家賃は払えよクソが)、「ねぇ君~!」の屈伸運動に腹を抱えていたら、「止まってもいい、休んでもいい、俺たちが君の補助輪になるから。」が心を揺らしてくる。

初対面の人間に「生きていてくれないかな?」と説得を試みる榎木田が、生死に対して特別な思いを持つことは明確で。だけど全くの「お人好し社長」に見えるのだから、演出と俳優はすごい。私は、この日の榎木田に嘘なんて一つも無かったと確信している。

「銀行に観葉植物があるのは犯人の身長の目安にするため」という流れは、防犯カメラに映った孝之を背格好で判断した榎木田と、繋がりますか?

 

 

3か月後 ~ 華怜の来訪

睦美にガチでキレてんのかと思って毎度慄くことができる。「仕事の方は順調だから♪」のスイッチングの間が天才。

愛らしくてお茶目だけど仕事熱心で頼れる社長の榎木田・繊細だからこそ周りを良く見てる一生懸命な睦美・緩みある若者に見えて誰より真っ直ぐなムードメーカーの健吉

赤・黄・青の3人。NB、VANS、adidasの3人。サイダーと紙パックのカフェオレ。

3人の関係性が徐々に形作られていること、それが大変美しい時間であること、決して蔑ろにしない演出が好きだ。

2人と『翼をください』を歌う榎木田の表情を、絶対に忘れたくない。

 

待ち受けを見たのは睦美だけで、華怜に会えたのは健吉だけ。これはもう悪いのは運命だよ。ひとつひとつの偶然が幾つも重なって、この物語は完結してしまう。

華怜を見た瞬間の榎木田の表情については言葉にするまでもないし、その絶妙な塩梅を数百人のオーディエンスに伝えているのが凄い。当然「一目惚れ」だったはずなのに、もう「動揺」にしか見えない。

「ここ(盗聴撲滅隊)はどのようにして(知られたんですか)?」という台詞も、華怜が榎木田を認識しているか否かの探りだろうか。

 

 

華怜への暴行 ~ 消えた盗聴器

渋谷さんと上野さんのシーンが、この作品を締めていく。圧倒的な吸引力で緩急が生まれる。

「電話に出ることが叶いません(汗)」の留守電はちょっと可愛すぎ。

翌朝1人で再びマンションを訪れた榎木田に、私は「用心深さ」や「計画性」を見たけれど、「連絡が付かなくなった辺りでアイリのことと絡められないかなと思い始めて」という台詞がやって来るから、もう何も信じられない。

 

 

榎木田の過去

「それこそ3人でよく歌ったりしてて」「俺の夢は成功して姉ちゃんと母ちゃんを楽させることってくらい、大事な存在だったんだわ」「一番初めに見つけたの俺でさ、」「事故だったのか自分で死んだのか分かんないけど」

淡々とかいつまんで壮絶な人生を語る冷静さに【恨み】への執着心が見える。大切な「信じられる人」を奪われ、残された「信じられる人」に裏切られた二重苦から、彼に欠けてしまったものを探す。

そして執着は過去の経験から生まれるものなので、人はみんな何かしらの執着を持ちながら生きていますし、(中略)つまり人間の心には、自分が与えられなかったものを求め、執着する傾向があると言えるでしょう。そしてその執着が大きければ大きいほど、それがうまくいかなかったときに、自暴自棄な行動に出てしまうことも。

パンフのコラムです。

 

私はこの物語の大切なキーワードのひとつに【人間】があると思っていて。だからこそ「こんな人間っているんですね…!」「人間人間言い過ぎ」の流れは欠かせないし、「人間って何なんだろう」の答えが、この物語の本筋なんじゃないかと思ったりもする。後の「人間になりたい」という哲学的な思考も、言うまでもなく好みである。

 

榎木田と健吉の絆が好きだ。「あの時、世の中冷めた目で見ている俺を救ってくれた」と話す健吉を見る榎木田の表情が、言葉にできないほど温かくて涙する。

 

 

305への再訪 ~ 惑わす盗撮犯

「盗聴」に「盗撮」を絡めて波を立てているのに、ただの蛇足にしていないのが見事だし、ガールスカウトで習った締め方がラストまで余韻を残すけれど、あと2回登場するうちの1回が眩い日常の「コメディー」で、もう1回が裏切りと決別の「サスペンス」になっているから、頭が上がらん。

「誰の仕業だ」という名台詞で、小節のノドに栞を挟みたくなる。

 

 

仮面男の掘削 ~ 謎の心像

サスペンスと切っても切れない【伏線】が、しっかり役割を果たしているのに、パリッと簡潔でいやらしくないのが、この作品の魅力。

 

 

撲滅隊の日常業務 ~ 睦美と健吉

国家資格を取っている榎木田は、仕事熱心か執着心か。

3人の団結力を表現しながらも、誰か・何かに執着する典型例と、そこから睦美と健吉の衝突→強固な信頼へと駒を進めていく。

「多分…僕のことです(笑)」の榎木田は、

榎木田は複雑だけどいいヤツで、ちゃんと生きようとしている人には寄り添おうとする。応援して愛していただきたいです。

という濵田くんの想いが、申し分なく発揮されていると思う。睦美と榎木田の関係性がよーく見える。

 

やっぱり榎木田と健吉の絆が好きだ。(二度目)「自分の中に芽生えた誰かを思う気持ちに向き合うことは、素敵なことだと思うよ」

健吉の成長が嬉しくて、少し寂しくて、でもやっぱり幸せで。

でも、榎木田自身の「誰かを思う気持ち」への向き合い方は、大きく間違ってしまっていること、誰も知らない。誰も教えてはくれない。

 

なぜめぐり逢うのかを 私たちはなにも知らない

いつめぐり逢うのかを 私たちはいつも知らない

どこにいたの 生きていたの 遠い空の下 ふたつの物語

自分が引き合わせた2人への想いを、歌に乗せて伝えたい。

縦の糸はあなた 横の糸は私

織りなす布はいつか誰かを 暖めうるかもしれない

間に座り、ちゃんと「あなただよ」と目を見て手を出して2人に歌わせる。睦美、健吉、絶対に絶対に絶対に、絶対に、忘れんな。織りなす布で暖めるべきは、榎木田だろう?絶対に絶対に、一緒に生きろ。

 

 

双子の妹 ~ 華怜の死

アイリの存在が明らかになった時、驚きを隠せない睦美と健吉の横に立つ榎木田の表情に注目していた人も多いはず。もう……上手すぎ。

 

渋谷さんと上野さんのシーンが、この作品を締めていく。圧倒的な吸引力で緩急が生まれる。(リピート)仮面男が華怜に言う「いくら叫んでも誰にも届かないよ」という台詞が、色々な所に効いて苦しい。

華怜は「中学の同級生である自分」の事なんて一向に思い出さず、思い出したと思ったらそれは「管理人の自分」で、それが引き金になって殺めたのかは、タイミング的に少し分からないけど、上野さんが仰っていた

華怜には何の気なしに言った言葉が、予期せぬところで人の感情を動かしていた

という考えは、まさにその通りだと思う。

 

 

アイリの行方 ~ 二人目の管理人

茉麻が出てきた時の「誰?」「華怜の妹?」という展開が分かりやすくて退屈しない。ここにきて立て続けに登場人物が増えて、物語の勢いが増すことを察知するし、サスペンスにおける「怪しい…」が一番楽しい。

 

 

不眠不休の調査 ~ 消えたVOX

榎木田の心配する2人が健気でかわいいからお気に入りのシーン。

「家賃は払い続けている」「盗聴器は仕掛けるだけなら罪に問われない」ありとあらゆるムーブを回収していく。この105分に無駄な時間なんて存在しない。

 

 

補助輪の存在

榎木田の「寝言は寝て言えよ」「お前なぁ…!!!」の迫力に覆いかぶさるように、

「誰かに愛されることがどれだけ幸せなことか」「一人の女もろくに愛せないで何が俳優だよ」「そんな奴の演技、誰の心にも刺さらねぇよ」の畳みかけで「俳優:有輝」が開花する。健吉の最重要シーンだと思う。

 

「誰だよお前たち」のあと、どうしてもこれまでの流れで「我ら盗聴撲滅隊!」の決めポーズが来そうになるところを、寸分の狂いもない「補助輪です!!!」が降ってきてもう堪らない。そうだな、そうだ、ここは「補助輪です」で大正解だ。これまでの決めポーズの流れがあって、存分に威力を増すこのシーン、ただただ西田征史に完敗。

 

 

星空の下 ~ 眼鏡の真意

正直ここが"全て"だと言っても過言ではないからマジで気合い入れた方がいい。(もう公演終わってんだよ)

信じられる人に出会えたんだなって」という睦美の言葉と健吉の解放。

嘘はバレなきゃ嘘じゃない」「バレた時は責任を取らなきゃ」という本質。

「嘘だと知らなきゃ傷付くこともなかったのに」「今の世の中、なんでも知ろうとしすぎって感じない?」「知らなくていいことってあると思う」という世の中へのメッセージ。(本気で自分の生き方を見直した)

完璧な人間なんていない」という嘆きが込められた「早く人間になりたい」の重み。

星に願いをかける 俺たちゃ妖怪人間なのさ

正義のために戦って いつかは生まれ変わるんだ

「早く人間になりたい」

暗いさだめを吹き飛ばせ

星空に響く叫び。【正義】【さだめ】【生まれ変わり】

ほんと、濵田くんの低音がやばいとか言ってる場合じゃないんですよ。

 

これまでに植え付けたポップで愛らしい榎木田によって「間宮謙吉さん、佐野睦美さん」も、まだまだ【コメディー】に感じることができる。本当に、ギリッギリまでシリアスに浸からない表現をするから騙される。

デリバリーで一悶着する2人と、真相に迫る榎木田で、明らかに時間の流れ方が違うから素晴らしい。これを生で表現する技術の高さ。

謙吉の「榎木田さんは一度決めたら譲らない人」という言葉を皮切りに、答え合わせが始まる。

 

 

突然の雨 ~ 孝之と父

「ビンゴだよビンゴだよ」までの流れは綺麗すぎる・早すぎるという意見には賛成するところもあるけれど、この作品はとにかく「スピード感」だと思っているので心地良さもある。

孝之が華怜を殺す理由になった、父への想い・関係性もしっかり描かれていて誰も置いていかない。

 

 

雷雨の通話 ~ 孝之と榎木田

榎木田、あなたが大切に想う2人は、この数ヶ月であなたの想像以上に成長したし、あなたのことを考えているし、あなたのことを愛しているよ。

 

孝之と榎木田のアクションはかなりハイレベルの技だと思うんだけど、抜群に呼吸が合っていて練習と相性を感じる。

少し余裕が出てきた頃にハンカチでひっそり販売したグッズを想起してしまい、手汗の滲むそれをギュッと握りしめることしかできなかった。

 

 

孝之の死 ~ アイリの真相

「あぁ〜その辺りはもう大丈夫です、興味ないんで」がひどく冷たくて、孝之の親子愛家族愛の眩しさに、自分の苦しさが過ぎったのかなとも思う。

 

黄色のトップスに青のジーンズの睦美、青のブルゾンに黄色いクレーン車がプリントされた謙吉、あの時飛び降りるはずだった彼女の手を引いて降ろし、混ざりあった2人を、真っ黒の榎木田はどう見ただろう。

 

このあたりで私の行き着いた結論をまとめたい。

榎木田が探していたものは【心から信じられるもの】だと思う。誰よりも「信じること」に執着した人間だった。

何もかも失い、裏切られ、臆病になって、それでも性善説を信じ、「信じるに値する人は絶対にいる!」という訴える姿。

信じられるものを探したい気持ちが、【盗聴】を仕事にさせ、自分と同じように何かを信じられなくなった人を放っておけなくて。

だから、アイリの「盗聴は気持ち悪い」から始まる怒涛の【人格否定】が、全てを破壊した。

「誰かを信じたい」気持ちゆえの行動を「信じてほしかった人」にまた踏みにじられ、自分の正義は【疑い】であったことに絶望し、睦美と謙吉の信頼を裏切ることで、いつの間にか自分が一番許せなかったはずの人間になってしまう現実、それら全てが行き着いた先が、「俺はもう自分を信じられなくなった」だった。

 

母と姉の死をなぞりながら、消えていく榎木田歩という【人間】に、何かを伝えられるのだとしたら、あなたは間違いなく「信じ合う2人」を作ったということを叫びたい。ただそれさえも、あなたに孤独感を与えていたのだとしたら…

 

 

撲滅隊解散 ~ 東名高速横浜方面

「前に話した性善説って覚えてる?それを信じる気持ちは今も変わらない。人間を信じる人間がいなくなったら、世の中もっとギスギスしちゃうよ」「信じられる人に出会えたんだ。どうか君たちはそのままで居てくれよ」

私は、睦美と謙吉の居場所を守りたかった榎木田に嘘がないと信じている。榎木田はそんなに難しい人間じゃないよ。ただ、人より少しだけ、助けを求めてる声が聞こえ辛い運命だった。

 

子供の時 夢見たこと

今も同じ 夢に見ている

ここで涙が溢れだすのを見ると、「子どもの頃の夢:母ちゃんと姉ちゃんを幸せにすること」が、榎木田の今も変わらない夢なのだろうかと思う。

それならば、悲しみの無い自由な空へ飛んで行っても、もう許されるんじゃないのかな?許してあげてほしい。どうか彼に翼をください

 

 

濵田崇裕のファンとして

車から降りて一例をした後、後ろにフラっと足を付いたのを見たことがある。私が観た公演の中で、榎木田の涙が流れなかった日は無かった。

ずっとずっと、クオリティの高い『熱演』だった。日々磨かれる各所に散りばめられた技術。共演者から明かされる役への真摯な向上心。

どうしても偉そうになってしまうけど、これまでで一番「頼もしい」姿だった。

本当に1公演も1人も欠かさずに走り切ったね。座長としてのプレッシャーは想像を絶するものだったと思う。

ここ数年、自分の体調に悔しい思いをすることも多かっただろうから、この32公演を乗り越えた濵田くんのガッツポーズを見ることができて、心の底から嬉しい。

素敵な監督と、素敵な共演者さんと、素敵なスタッフさんに出会えてよかったね。

 

昔々濵田くんの仲間を応援していた友だちも、あの頃初日に泣いていた濵田くんを知っている友だちも、今濵田くんが手にした6人の相棒を愛している友だちも、みーんな観に来てくれたよ。

そして何より濵田くんのことが大好きなあなたのファンが、ずっとずっと応援してたよ。

本当にお疲れさまでした。ゆっくり休んで寝てほしい…けど、まだまだ気が抜けない繁忙期でしょうから、どうかジャニーズWESTとたくさん笑ってください。

 

ありがとう、盗聴撲滅隊!!!